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中秋の月 夢幻能と蘇軾 [詩]

中秋の月を、見ることができました。黄色いお月さま[満月][夜]が綺麗です。
虫の音も華やかでなかなか、よいお月見になりそうです。

昨日に続いて、もう一つ、今日、想い出したことがありました。

以前、読んだ本の中で紹介されていた短歌と、それにまつわる記述です。
大変美しく感じ、「孤絶」という言葉とともに心にのこっていましたが、忘れていて
今日ふと想い出しました。
それは、「日本人の心」(相良亨先生著)に紹介されていた、謡曲「姥捨」の話で
この謡曲は「古今集」の

わが心 なぐさめかねつ 更科や 姥捨山に 照る月をみて  
をもとにしていると説明されています。

謡曲「姥捨」は
『捨てられた老女の霊が八月十五夜に都からの旅人の前に「白衣の女人」としてあらわれ、
月光の下に舞う。しかし夜が明けそめると、老女の姿は旅人には見えなくなる。かくて
旅人は去り、老女は再び「独り捨てられ」た身となる。・・・』。(P174)
という筋なのだそうです。

一般的に
『夢幻能において、亡魂はその妄執のわだかまりを語り、あるいは舞うが、鬱憤する心を
語り、あるいは舞うことによって、亡魂はあるやすらぎを得ることになる。ただ、謡曲に
おいては、心をはらし、ある安定をうるためには、人がこれを受けとめてくれることを必要と
している。・・・亡魂は、その妄執の苦しみのゆえに弔われることを求めて、化身となり
幽霊となってあらわれてくる。・・・亡霊は、語ることによって、弔われることを求め、やすらぎ
を求めるのである。』(p170)
のだそうです。

心理療法などで、人の傾聴により、人が癒される側面を、象徴的に表している気もします。

筆者は
『老女には人恋しさも残されているが、老女があらわれてきたのは、むしろ人とともにみた
八月十五夜の月である。月にその孤絶を慰めようとするものである。俗情を絶した老女の
亡霊が、その孤絶を月に慰めようと舞う舞は透明な清らかな美の世界である。清らかさは
月光の清らかさでもある。・・・』(p175)

『月光のもとに慰めを求めて舞う老女は、その慰めを求めて舞を舞ううちに救済されない者
としての孤絶をいやましに感じないではおられなかった。歓喜と孤絶へつき戻されるという
二つの方向が一つになった舞である。』(p175)

と書いています。

普通、亡魂は人の傾聴により救われるのですが、この謡曲では老女は救われず、透明なまま 透明な哀しみと美しさとして存在し続ける、ということのようです。
久々に「日本人の心」を手にとり、これを読んだ時の感動を想い起しました。

以下の蘇軾の詩とともに、想い出しながら、秋のお月見をしたいと思います。

蘇軾の「中秋月」
(「宋詩選注 2」 銭鍾書/著 宋代詩文研究会/訳注 東洋文庫 平凡社)より

中秋月[満月]

暮雲収尽溢清寒   暮雲 収まり尽きて 清寒 溢れ
銀漢無声転玉盤   銀漢 声 無くして 玉盤 転ず
此生此世不長好   此の生 此の世 長(つね)には好からず
明年明月何処看   明年 明月 何れの処にか看ん

夕暮れの雲はすっかり消えてなくなり、あたりは清々しい冷気に満ちている。 夜空には天の川が音もたてず流れ、玉の皿のような丸い月が転がっていく。 この人生と中秋の夜が、いつも今宵のようにすばらしいとは限らない。この明月 を来年はいったいどこで眺めることになるのだろうか。[夜]

[満月]

澄んだ秋の空気は、ある種、身を切るような透明な感じがします。
やはり、私はほんわかやわらかで浪漫的な春の方が、安らげて好きな季節です。
秋は好きなのですが上記の理由でちょっとにがてですので同じく蘇軾の「春夜」を写してみます。。

春夜[かわいい]

春宵一刻値千金   春宵一刻 値千金
花有清香月有陰   花に清香有り 月に陰有り
歌管楼臺聲細細   歌管 楼臺 声は細細たり
鞦韆院落夜沈沈   鞦韆 院落 夜は沈沈たり

春の夜のひとときは千金のねうち。 おぼろ月のもとに清らかな花の香り。 たかどのからは歌や音楽がひそかにきこえて来る。 ひとけのない中庭にぶらんこがさがっており、夜はしんしんとふけて行く。

こちらは「中国の名句・名言」(村上哲見先生著)を参考に、抜粋させていただきました。
間違えていないといいのですが。。

こちらは、歯切れのよい調子で心地良いものの、ほんわか酔えそうでもある詩です。
孤絶は美しくても、やっぱり厳しいです。。





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コメント 11

Nora

月は見る人の心の鏡のようであり、
改めて、しみじみと、お月さまを見ました。
by Nora (2008-09-14 23:25) 

TAKUMA

昨日はダメかと思いましたが、見えましたね、満月。
by TAKUMA (2008-09-15 10:02) 

sirokuma

ブログスキンの「星座」を見た後に記事を読み進めていると右端に「ゆうこりん」が現れました。
「コリン星」を思い出しました。

...蘇軾の「中秋月」ですか。なんというか儚さみたいなものが見え隠れしていて私は好きです。
by sirokuma (2008-09-15 11:56) 

miyoko

xml_xslさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

manekiuriさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

Noraさま
そうですね。月は見る人の心を映し、その時によっていろいろな
想いを抱かせてくれるのかもしれませんね。
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

yychiroさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

Lunaさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

mimiさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

TAKUMAさま
そうですね。昨日はお月見は無理かと思ったのですが、お月見を
することができ、嬉しかったです。
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

sirokumaさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。
私も、蘇軾の「中秋月」は好きです。蘇軾の人生の儚さへの想いが
歯切れよく聴こえる後2句から、ひしと伝わってくるような気がします。
コリン星もかわいいな~と思ってます。

yukitanさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。


by miyoko (2008-09-15 19:48) 

miyoko

MOCOMOCOさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。


by miyoko (2008-09-15 22:20) 

toraneko-tora

長らくご無沙汰しました
明日(9/17)から再開いたします
引き続きよろしくお願いします
by toraneko-tora (2008-09-16 11:36) 

miffy

はじめまして^^
ご訪問&niceありがとうございました
by miffy (2008-09-17 13:58) 

gogohanasakura

月を愛でるというのは、日本独特ですよね。
すばらしい漢詩と謡曲ですね。・・・勉強になりました。
月見団子なんか大好きです(;^_^A アセアセ…
私は月の光はとてもきれいだと思います。
いつまで見ていても飽きないなぁ~

 あんなにきれいな月が欧米へ行くと月の光を浴びるとよくないとか言って、青白い月光(ルナ)は恐い妖精や狼男の住む世界になりますよね。
とても不思議ですね。
by gogohanasakura (2008-09-17 20:01) 

miyoko

toraneko-toraさま
ご訪問とnice! コメントをどうもありがとうございます。

miffyさま
ご訪問とnice! コメントをどうもありがとうございます。

gogohanasakuraさま
こんにちは~。
たしかに月光って不思議ですね。月をみて急に心あらわれた気持ち
になって元気になったり、反対に物思いにふけったり、月って不思議
な存在だなって思います。月の光は綺麗ですね。。

きみなりさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

by miyoko (2008-09-19 22:24) 

yoku

最近は中秋の名月にご無沙汰しております。
miyokoさんの造詣の深さに接して、自分を恥じております。
たまに山に登ったりしておりますので、その際には月や星を
眺めたいと思ったことでした。
ありがとうございます。
by yoku (2008-09-21 11:04) 

miyoko

takemoviesさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。

yokuさま
ご訪問とnice! どうもありがとうございます。
私のは、うけうりの知識ですので。。ただ、月光と月は好きです。
月や星には、時々癒されています。天体のもつ力なのかもしれません。
建築や建物も好きですが、恥ずかしながら、知識がありません。。
また、いろいろ教えてください。





by miyoko (2008-09-21 23:27) 

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